マイケル富岡似の外国人を助けた。
私は外国人がとても苦手だ。これは幼い頃黒人さんに囲まれたトラウマに起因するのだが、苦手だからといって世の中はそううまく行かないもので「コイツは危険じゃなさそう」と思うのか道を尋ねられる事が多い。
当時私は港区の営業担当をしており日々東京タワー周辺を歩いていた。この辺は外国人観光客が多く、連日話しかけられては生まれたての子鹿の様にプルプル震えていた事を覚えている。
その日私はアポイントの合間に、お客様のクレーム対応を迫られており
ちょうど本日3回目のクレーム電話を確認して震え上がっていた時、背後から声をかけられた。
「Excuse me.」
流暢だが、淡々とした声だ。振り返ってみると目の前に大柄な男性が立っていた。
身長は恐らく190cmを超えているだろうか。ただでさえ怖いのに、このデカさは。私の足はクレーム電話も相まって激しく振動している。
顔立ちも端正でマイケル富岡みたいな顔をしていた。10股くらいかけてそうなので羨ましすぎて更に足が震えた。
富岡は心底困ったといった様子だった。どうやら人とはぐれてしまって東京タワーで待ち合わせをしているらしい。東京タワーはどっちですか?と聞いているみたいだ。
東京タワーならすぐ見つかる気もするけど少しズレた場所だから分かり辛いのだろうか。片言の英語でコミュニケーションを取ってみる。どうやら富岡もなんとなく方向が分かったみたいだ。淡々と御礼を言い颯爽と歩き出した。
本来なら私も一緒に付いていき送り届けるのが人情だが、話している最中もクレーム電話が鳴り続けていたので止む無く一人で送り出す事にする。
その後、矢継ぎ早にクレーム対応を終えた私は、ふと富岡の事を思い出した。
見知らぬ土地でひとりぼっちになる心細さは想像に難くないし、話しかけた人間もブルブルと震える始末だ。
ちょっと悪いことをしたかなと思い、罪滅ぼしの気持ちで東京タワー周辺を確認しようかとゆっくり歩き出した。
しばらく歩いていると横の路地から出てくる彼を見つけた。
「やっぱ迷ってたか~」
意外と早い再会に拍子抜けだったがそれにしても相変わらず目立つ外見である。
目が合ったので会釈をすると彼は急に笑顔になりマシンガンの如く話かけてきた。
さっきとは打って変わって、テンションが異様に高い。やはり先ほどは私の対応に気分を害していたのかもしれない。私は彼に
「東京タワーはこっちだよ」
と片言の英語で伝えると、彼も一拍置いて理解し自然と歩き出した。
一緒に歩いていて気付いたのだが、彼はとにかくおしゃべりだった。英語が早すぎてほぼ何を言っているか分からなかったものの、彼が日本を漫喫しているであろう事は一目瞭然。どこで買ったのかさっきまで持っていなかった厳つい顔した天狗のお面を大事そうに抱えている。
何となくほっこりし、日本を楽しんでくれている事に嬉しくなった。
そうこうしている内に東京タワーが近づいてくる。彼を連れのところまで送り届けたら、ミッションは完了だ。
相変わらずアメージング!!的な事を言ってハイテンションだったが東京タワーのちょうど下らへんに着くと
彼は更にテンションを上げて走りだした。
どうやら連れが見つかったらしい。微笑ましい気持ちで彼の背中を眺めていた私は、目の前の光景に目が点になった。
富岡が、二人いる…??
瞬間、私は全てを理解した。
なぜ10分ほど経っていたのに、まだあの周辺をうろついていたか。
なぜ最初に会った時とテンションが全然違ったのか。
なぜ持ってなかったはずのお面を持っていたのか。
そうこの二人、双子だったのだ。どうやら後から会った富岡は別人らしい。
「こんな事もあるんだな、でも富岡が二人も並んでいる絵面ってすごいな。」
などと思いながら微笑ましい光景を目の当たりしていると富岡の後方から歩いてくる人を見て、私は驚愕する事になる。
きっとこの光景を二度と忘れる事はないだろう。
よ、四つ子!!??