自省log

毎日5分をムダにしたな。と思えるブログ

駅前でイチャつく歳の差カップルをチラ見していたら。

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その日私は友人と待ち合わせをしていた。場所は地元から数駅離れた駅のロータリ。待ち合わせ時間はとうに過ぎているが、友人から未だ連絡はない。

ここはいつも待ち合わせする場所で寄りかかることができるから好みだったがスマホの電池が切れそうなので手持ち無沙汰だ。暇つぶしに辺りを見渡すと、ふいに隣のカップルが目に入って私はギョッとした。
このカップル年齢がかなりミスマッチなのだ。男性は明らかに50代近い出で立ちだが、女性は20代前半くらい。波平さんとサザエさんらへんを想像すると分かり易いかもしれない。始めは親子かと思っていたが人目を憚らずイチャつき始めたので、カップルなんだろう。

しかしなんともまぁ濃密なラブシーンである。今にも波平のフネが出航しそうな勢いだ。彼らには自分以外の世界が見えていないのだろうか。
だがこれだけ衆人環視の中、ここまでイチャつけることは逆に敬意すら覚える。
その是非は、一旦置いておくとしてそれだけ何かに熱中できることが素直に羨ましかった。今の私にそれ以外の世界が見えなくなるほど、熱中できるものなどないからだ。

そんなことを考えていたら、胸の内側からドロっとした黒いものが溢れてくる。
カップルへの嫉妬か、熱中できるものがない自分への情けなさか。この感情の昂りを上手く言葉にできない。だが思わしくないものなのは確かである。こうなったら場所を移動すべきかなと考えつつも

「あのカツオ、俺らの事見て悔しくてどっか行ってやんの(笑)」

とか思われるのが癪だったので悔し涙を押し殺しながら我慢する。全然悔しくないから。お前の頭の毛みたいに、たまたまここに生えてるだけだから。

しばらく波平の頼りない残毛の如く佇んでいると、サザエさんと目があった。
よく見たらこの人どこかで見覚えがある。私はチラチラその女性を見ながら、自分の記憶を探ってみたがいくら考えても私の浅はかなデータベースでは該当する人物がサーチできない。

そうこうしている内に友人がやってくる。隣のカップルは相変わらず濃厚なラブシーンを繰り広げており、波平のタマがマスオしてそうだったので彼らも移動するのだろうか。手をしっかり握りタラオのように軽快な足取りで夜の闇に消えた。
友人はそんな彼らの後ろ姿を冷ややかな目で一瞥すると、挨拶もそこそこに私を促して足早に居酒屋へ向かう。

居酒屋での話題は専らさっきのカップルだった。
私は「人前であんなに堂々とイチャつけるのもすごいよな、真似するつもりはないけど」と切り出した上であの二人がどれだけ濃密だったか、自分がいかに惨めな気持ちで過ごしたかを雄弁に語ったが友人の反応が薄い。

今の彼は心ここに非ずといった面持ちで何やら考え事をしているようである。不思議に思いつつもお通しをつついていると、友人は何かを決意した顔で身を乗り出しながら言った。

「…さっきのカップルの女。あれ俺の妹だ」

!!!!?

ここで全てが繋がった。
友人には歳の離れた妹がいる。私と友人は中学の同級生であり、まだ幼かった妹さんを何度も見たことがあった。その時の面影が「どこかで見たことがある」という感覚を呼び起こしたのだろう。しかし最後に見たのがもう10年くらい前なので、もう立派な女性になった妹さんを判別できなかったのである。

その後友人は母親に連絡を入れ、以下の情報を仕入れた。

・妹には最近彼氏が出来た。
・彼氏は49歳で、妹は22歳なのでなんと27歳差
・二人は近々結婚を考えている
・ちなみに彼らのお父さんは51歳

その衝撃的な事実に私は食事を忘れ、呆然と彼の話に聞き入る。
途中、自分の妹とその彼氏のイチャつきぶりをよりによってサザエさんに例えられた彼の心中を察し、その非礼を詫びたが彼はそんなことより妹の婚約者がお父さんとほぼ同い年であることが何より受け入れがたいようだ。

「これからどう接すればいいか、想像もできないな…」

そう呟いた友人が、酔いつぶれて吐いたお通しのワカメちゃんを私は忘れることができない。