七夕なのにたくさんのマッチョを見続けた話
本日7月7日は、七夕だ。遠距離恋愛界の大御所「彦星」と「織姫」が1年間蓄積した”業”を全て解放し、激しく燃え上がる一日だと認識されているが、これにかこつけてデートをしている人も多いと聞く。
今年は生憎の天気であるものの晴れればロマンチックな天の川を望むこともできるし、例えば告白をするにしても単なる平日に比べて、段違いにハードルが低いからである。
「星すら愛し合っているのだから、俺らも愛し合うべきなんじゃないか。」
これは七夕用に作り上げた私の決め台詞なのだが、これをいつの日か使うため七夕はやはり意識せざるを得ない。
だがそんな私にとって3年前の七夕は、地獄以外のなにものでもなかった。何故かマッチョを見続けることになったからである。
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きっかけは友人からの電話だった。
「今日もし良かったらイベントあるけど来ない?」
私は、正直やったと思った。どういうイベントかは皆目検討つかないが、行事にかこつけてイベントが行われることは往々にしてある。しかもそういったイベントの参加者は男女ともたいてい寂しい気持ちを抱えているのだ。
私はその時、彼女もいなかったため即座に了承した。
「七夕の夜に男女が出会う。」出会いのきっかけとしてはこの上ないシチュエーションだし、私には上記の決め台詞もある。これは素敵な夜になりそうだ、そう率直に思った。
私の返事を聞き友人は喜びを増した声で
「おーサンキュー!場所は地元だから、15時に待ち合わせな!」
そう言葉を残して、電話を切った。私はてっきり渋谷か何かで開催されると思っていたのだが場所は地元?待ち合わせしてから出向くのかな?
今思えば、この時しっかり内容を確認しておけば良かったのである。
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待ち合わせ場所に着いた私はすぐ友人と合流した。彼は軽く詫びの言葉を口にすると「会場はこっちだから。」と私を誘導し始める。しかし駅とは全く逆方向だ。
この時点で渋谷やら六本木やらのイベントではないことに薄々気づいていたが、もしかしたら地元で何かが開催されるのかもしれない。そんな一縷の望みをかけて、彼の後を追う。
だがそんなわずかな期待は一瞬にしてかき消されることになる。会場にデカデカとこう書いてあったからだ。
ボディビルダー大会(地区予選)
私は声が全く出なかった。こんなに人って声が出なくなるものなのだと勉強になったくらいだ。
会場はホールと言う名の雑居ビル。どうやら近隣のマッチョにとってはかなり重要な大会のようで、友人もまたスポーツジム勤務なだけに思うところもあるのだろう。※ちなみにこの大会は全日本選手権のようなものではなく、地域の大会だった。
まるで猪突猛進といった勢いで会場に突き進んでいく友人の後ろにピタっとくっつき無事会場へ入場。
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大会の流れは以下のようになっていた。
・「ダブル バイセップス」「ラットスプレッドフロント」「サイドチェスト」など様々のポーズとリラックスポーズを基本として、審査員が筋肉の質、量、素晴らしさを審査。これ加えポージングの美しさを見て採点をする。
・参加者は20人で、予選と決勝を同日に行った上で優勝者を決める。
つまり20人ものマッチョ(それもガチの)を見続けなければいけないのだ。端的に言って地獄である。
筋肉が好きな人にとっては最高のイベントなのだと思う。それは理解している。
だが少なくとも七夕パーリーナイトなどと浮ついていた私にとって、厳しい現実に他ならない。
友人は壇上のマッチョの方をまるでトランペットを眺める無垢な少年のように爛々とした瞳で見つめている。彼は、そして大会に参加しているマッチョの皆さんは何も悪くない、確認を怠った私が悪いのだ。だがやはり納得できない気持ちもある。私は何故織姫を探す事なく筋肉を眺めているのだ。
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ある一人の参加者が立派な「バック ダブルバイセップス」を披露した。
会場がひと際大きな喝采に包まれ、アナウンスが流れる。
「ご覧ください、この三角筋を。まるで天の川が隔てる織姫と彦星のようじゃないですか!!」
やかましいわ!!!!