自省log

毎日5分をムダにしたな。と思えるブログ

その海辺には男がひとり。

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海を眺めていると改めて思う事がある。自分が見えていないところにも世界は続いていて、自分が見えている世界など本当にちっぽけなものなのだと。

その日男は、海にやってきた。その心中は計り知れないが何かを決意した様に強くこわばった顔をしている。顔色もすぐれない。

男は類まれなエリートだった。生まれてこの方、挫折を知らず全てを思いのままに成し遂げてきた。彼にとって自分以外の世界はクズなのである。

そんな男にも突然、転機が訪れる。ある日上司から異動の命が下ったのだ。付き合いは長かったはず、何度も共に苦難を乗り越えたはず。
男は奥底の理由を読み取る力がない。「自分が乗り越えさせてやった」という不遜な態度がそうさせたのに。

上司は言う

「今の君はうちには必要はない」

その顔は、まるで冷たい大理石に彫刻されたかの様に無表情だ。

人間は兎角脆いものである。今までどんなに順調に進んでいたとしてもたった一つの些細なつまずきがやがて大きな潮流となって掠め取られてしまう。男もまた、そんな普通の人間なのだ。

一つ、また一つと敗北が連鎖していく。ある時、今まで自分が背負ってきた業が嘲笑っている様な錯覚を覚えた。男はこのまま下らないこの人生に終止符を打つ決意をした。

同僚やライバルは彼を嫌っている。中には消えて欲しいとさえ思っている者もいるだろう。今や自分を止める人間なんてこの世界にはいやしない。
気付けば恋人も、仲間も皆彼の元から去っていった。だがそれは彼がもたらす成功に群がっていたに過ぎない。

「さてそろそろいくとしよう。」

そうつぶやくと男は歩き出した。
未練はないと心で思いながらも、その足取り一歩一歩に未練の色を残して新しい"旅路"を急ぐ。すると突然、目の前が突然真っ白になった。どうやら何かに躓いたようだ。

ボトル?

それは何の変哲もない、小さなボトルだった。こんなものに躓くなんて、最期の最期まで俺は。ボトルに写る落ちぶれた姿に打ちひしがれながら中を覗き見ると、なにやら手紙が入っているではないか。

そう言えばボトルに手紙を入れて海に流すなんて遊び、幼い頃よくやってたっけ。誰に届くかも分からない、いやもしかしたら海の底に沈んでしまっているかもしれない。でもそれをやめる事は出来なかった、自分が知らない世界をどうしても知りたかったからだ。

あれからもう10年以上、男はそんな自分を忘れてしまっていた。
中に入っていた手紙を読んでみる。

やっと見てくれたね。
つらいときぼくは、ついうみにきてしまうんだ。うみのそとにはぼく
らが知らないだれかさんがいる。
これはきみとぼくだけのヒミツなんだけどこ
ろんだとき、いたくないおまじないを教えてあげようか?
せかいがきっとかわるよ!

どこか懐かしい字。意味のない文章。いや幼い頃、毎日のように見ていたあの字だ。>><<男は幼い頃、厳しい家庭に育ち勉強ばかりさせられていた。「他の馬鹿な人間と付き合うんじゃない」それが親の口癖だった。

男は見下しながらも、どこか自由にしている同級生が羨ましかったのだろう。辛い時は海に来て、海にただ想いを投げた。誰に見てもらわなくても構わない。知らない海の向こうの人に、想いを投げ続ける事で何かが変わると信じていた。

男は手紙を読んだ後、静かに涙している。そうだ自分にはまだやらなきゃいけない事がある。こんなところにいる訳にはいかないのだ。
上司や仲間、恋人、そして両親。彼らにもう一度あわなければ。なんだろう、とても清々しい気分だ。
涙でグシャグシャになった顔を袖で拭い、男は前を向き直す。ここに来た時とは別人の様に、何かを悟った顔で彼は海を背にして歩き出した。

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そんな彼を影から見ていた二人の男がいる。

「これにて研修は終了です。」

「あぁありがとう、一度彼を異動させると聞いた時は驚いたがさすがだね。あの手紙も効いていたみたいだ。これで彼も一皮むけてくれるだろうか」

「問題ないですよ、この研修の成功率は99%です。」

「99%?残り1%はどうなんだ?」

「さぁ分かりません、依頼者との連絡が途絶えてしまうので」

自分が見えている世界など本当にちっぽけなものなのだ。

日常お題ったー

キーワード
「ボトル」「後味の悪い作品」

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