可哀想なザビエル
昨日、会社の飲み会に出席した私は終電少し前の電車で帰宅する事になった。
東京の電車は常に混んでいて辟易するが本日は運良く座ることも出来たので、ちょっとした満足感に浸りながら愛用のスマートフォンを覗いてみる。
どうやら充電をし忘れていた様で、電池が完全に切れていた。こうなると車内では結構ヒマだ。始めは目を瞑っていたがどうにも寝付けそうもない。
そうこうしている内に少し車内の混雑も緩和されてきたので、車内を見回してみた。皆疲れているのだろう。座席に座っている人の大半が泥の様に眠っている。そんな中、目の前で寝ているおじさんに目を奪われた。
言うなればフラシスコ・ザビエルの生まれ変わり。体勢も同じ様だし、頭のコンディションもザビエルのそれだ。私は暇だったので、ザビエルさんを眺めてみる事にした。
衣服はシワシワ、寝ている表情もくたびれている。今にも崩れんばかりに体を傾けているにも関わらず、ギリギリで保つ絶妙なバランス感覚が面白い。
年齢的には50台と言ったところだろうか。家庭を持っていてもおかしくない年齢だが衣服のしわしわ具合から察するに、もしかしたら奥さんに逃げられて一人暮らしをしているのかもしれない。
いや、もしかしたら一人娘を私立大学に入れる為に頑張っている可能性もある。がんばれザビエルさん。
そんな妄想をしながら眺めていたのだが、ある駅に停車しそろそろ発車というタイミングでザビエルさんが突然「はっ!!」と起き上がった。どうやらここが彼の降りる駅らしい。急に駆け出すザビエルさん。ドアに殆どダイブする勢いで飛び出ようとしている。
しかし、歳には勝てないものである。自分が想像していたより体が動かなかったのだろう。ドアにおもいっきりぶつかってそのままうずくまってしまった。そこには何とも表現し難い悲壮感が拡がっている。車内の誰もがあまりに悲惨な光景を前に絶句した。
と言うのもこの時間帯は既に上り電車がなくなっているので一つのミスが命取りになるサバイバルだ。
しかも運が悪い事に、急行なので次の停車駅は6駅も先。これ以上ない七転八倒のシチュエーション。
私は泣きそうになった。こうも神は無慈悲なのかと。
もしタクシーで帰るにしてもお金がかなりかかるはず。どこかでオールと言っても年齢的に厳しいだろう。
「ザビエルさん可哀想だな」と思いつつ、そんな事を呑気に考えていた私はその時、とんでもない事に気づいた。
「ここ俺が降りる駅だ…。」
そう。ザビエルさんと私は降りる駅が同じだったのだ。ザビエルさんの一挙手一投足に夢中になり過ぎて、これっぽっちも気づかなかった。
----こうして私は、6駅先の訳分からないターミナル駅に着いた。
タクシーの運転手さんにここから私の最寄り駅までいくらか聞くと
どんなに低く見積もっても5000円はかかるとの事。
所持金120円
ザビエルさんの頭の事とか可哀相だとか色々言ったが、一番頭が可哀相なのは私だ。