隣の女子高生からドラリオンみたいな音が聞こえた。
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以前都内の某バックスで休憩していた時のことである。いつも混んでいるので普段はあまり使わないのだが、その日は次の予定まで微妙に時間があったのでゆっくり座って休憩しようと思っていた。
夕方だけあってサラリーマンや学生、主婦が大挙をなしていたが運良く席も確保できたので悠々自適といった振る舞いで着座する。ゆったりしたソファは殊の外座り心地が良い。
ちなみに左隣は疲れた顔でコーヒーをすするサラリーマン。右隣は可愛らしい女子高生だった。何やらノートを開いて勉強に励んでいる様子。偉いな!若人。そんなことを思ったものだ。
さてせっかく座れたし、甘ったるいラテでも飲みながら読書でもしようかな。そんな風に思いながら深く腰掛け直す。それが作用したのか分からないが、私が深く腰掛けたと同時に、それは突然やってきた。
ドラリオンッッ!!
???
何かガスが爆発したような。サーカスを彷彿とさせる異音が周辺に響き渡る。私は一瞬何の音か認識できない。しかし確実に「ドラリオン」みたいな音が聞こえた。それも方向は右側、女子高生の方からである。
状況を一旦整理してみよう。構図としては以下の形になっていて
恐らくは人体が発する"あのガス"と見て間違いはないが、今のところそれらしい匂いはない。「まさかこの女子高生こい…」いやそんなことはない。絶対ない。
男というのはいくつになっても愚かな生き物だ。女性に対して過度な幻想をいただいていることも少なくないのである。アイドルはトイレなど行かずシャボン玉とかが出る。そんな風に思っている男性諸君も多いのではないだろうか。かく言う私もその一人だ。そんな私にとって女子高生が人前でオナラするなど(仕方ないケースもあるが)どうしても信じられない。いや信じたくなかった。
じゃあさっきのドラリオンは一体なんなのか。私はない頭をフル回転させ一つの結論に到達した。
「シルクドゥソレイユとダイハツの新たな広告戦略なのではないか」
と。
かつて女子高生の太ももに広告を掲載するというマーケティングが話題になった。男にとって女子高生は永遠のロマンだからだ。そしてここにきて、まさかのドラリオンである。
「もし隣の女子高生からドラリオンという音が突然聞こえたら。」
なんとも恐ろしい広告戦略ではないか。
CMはサブリミナル効果を狙ったものだと昔どこかで聞いたことがある。しかしそんなCMより、効果は間違いなく高い。何故なら私の頭はもうドラリオンでいっぱいなのだから。このまま仕事終わりにチケットショップに足を運んでしまいそうな勢いだ。おのれダイハツ!
そんなことをぐるぐる考えながら、意識し過ぎて固まっていると不意に右側から視線を感じた。どうやらドラリオンたる彼女が私の方睨みつけているのである。
ドラリオンなんか怒ってない??
状況を確認するため何気ない素振りを見せながら、右側を見てみよう。目の端で追うにも限界があるからだ。
すると彼女は軽蔑するような目で私を睨んだかと思うと、すぐにプイっと目を逸らした。なんて冷たい目。広告にしては目が冷たすぎる。人ってこんなに冷たくなれるんだ。
__
その後、私は少し早いがお店を出ることにした。居ても立っても居られなかったからだ。席を立った瞬間、また彼女から強い視線を感じたが無視して走って逃げた。
彼女は何故私を睨んできたのか。考えられるのは
「私にドラリオンをなすり付けるため」
あるいは
「私がこいたと思った」
この2つだが、今となっては確認する術もない。人間がこの世界で把握できることなど微々たるものしかないのである。あの音は一体なんなのか、彼女が本当にこいたのか。それら全てはもはや闇の中に落ちてしまった。
ただ一つ確実なことがある。女子高生からの冷たい目線が強烈過ぎて、危うく私のドラリオンがダイハツしそうになったことだ。
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