デートの直前にトイレで迫られた究極の二択。
その日私は意中の女性宅にお呼ばれし、颯爽と車を走らせていた。
今回でデートは3回目。雰囲気も良いし、しかも本日は彼女の家でデート。否が応にも期待は高まる。
しかしそんなワクワクをかき消すような自体は車を走らせてからまもなく起こった。とてつもない腹痛がやってきたのだ。
「下腹部をプレス機で押し潰されているような痛み。」
その時私が感じた痛みを、端的に表現するならこれが最も正確だと思う。
流れ出る脂汗を拭い、苦悶の表情で運転していたがもう我慢は限界だった。波が全く収まらないばかりがどんどん強くなっている。
第一波、二波、三波。さながらジェットストリームアタックの如きそれが腸内の黒い三連星を外へ押し出そうと必死だ。
もうこのままじゃアムロがいく。そう判断した私は、前方に見えたホームセンターらしきものへハンドルを切った。
__
ホームセンターのトイレは空いており、押し寄せる駆逐艦を全て駆逐した私は内側から沸き上がるある種の恍惚感に浸りながらこの先について思いを馳せていたが、生憎そうゆっくりしていられる時間はない。さっさと処理して彼女の家に向かわねば。
そんなことを考えながらふとペーパーホルダーに目をやった瞬間、全身から血の気が引いた。
か、紙がない!!!
そう、このトイレには紙がなかったのだ。サブホルダーにもなければ、戸棚にもない。全くもってペーもパーも見当たらないのである。勇気をふり絞り個室から顔を出しみても、ペー・パーらしきものを見つけることは出来なかった。
どうする、どうすればいい?何かこの他で、紙を手に入れる方法はないか。もちろん私はポケットティッシュなど持っていない。
ケータイでお店に電話をかけて救援を呼んだらどうだ?いやケータイも車に置いてきてしまっている。それに財布も…。
ペーパーの芯でもあればなんとか応急処置ができそうだが、それもキレイに片付けられている。どうする…!!
私はない頭を全力で回し、打開策を思案した。人間追い詰められると集中力が増すものだ。そんな窮地の中で思いついた選択肢は以下の二つ。
・下着で拭いて、その下着は捨てる。
・手で拭いて、手を洗う。
手で拭くのは人としてなんかアレだし、かといって下着を犠牲にするのも嫌。何しろこれから意中の人と家デートなのである。
付き合いが長いならまだしも初めての自宅訪問をノーパンでやってのけるほどパンクにはなりきれない自分が歯がゆい。*1
ではどうする。どうするのだ俺。時間は無情にもどんどん過ぎているが、手立ては全く浮かばない。というか、なんなんだこの状況。なんで私がこんな目に合わなきゃいけないんだ、親父にもぶたれたことないのに。
だがこのまま悩んでいても一向に解決しないのである。私は意を決し
「手で拭く」
覚悟をした。手で拭いて、すぐ水道で洗う。これならノーパンにならずにも済む。
よし、すぐにやってしまおう。躊躇しているヒマはない。彼女の笑顔に会うため、深く息を吸いこんで恭しく右手をそこに伸ばした。
____
それから約1時間。私は無事、彼女宅に到着した。だが足取りは重い。
文字通り禁じ手を使ったからか、あるいは汚れた右手で彼女の家に入る罪悪感か。なんかもう一度手を洗いたかった。
私は心臓の高鳴りを抑えるように、「よし!」と声を出しチャイムに手をかける。とにかく部屋に入ったら、もう2~3回手を洗おう。ピンポーン!
鳴らしたチャイムに呼応するように玄関へ近づく足音が聞こえ、静かに扉が開く。さぁ手だ、手が洗いたい。
「あ、こんにちわ。初めまして彼氏の◯◯です」
手を、おうおぉぉ!!!!??
____
結論を端的に言えば、その日私は彼女から「彼」を紹介された。どうやら同棲しており来年、結婚の予定らしい。
「なんでデートをしたの?」とか、「なんで彼氏に俺のこと紹介すんの?」とか聞きたいことは山ほどあったが色々なことが重なりすぎちゃって"私もよくよくウンのない男だな"とか一人でつぶやいて、泣いた。
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Ryohei Kono (@tube_ryo) | Twitter
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*1:※下着でふき別の場所で下着を買うのがベストの選択だったが、その瞬間では判断できなかった。