そう叫ばずにはいられない。
今か今かと待ち侘びた2014年がついにやってきた。
来年こそは素晴らしい1年にしたいと意気込んでいた年末の出来事である。
大掃除をしてすっきりした自宅で、心地よい疲れと共に眠りにつこうとしていた私はどうしても眠りにつけず、あっち向いたりこっち向いたりを繰り返していた。
身体が興奮しているのだろうか、理由は分からないが今はとにかく目が冴えている。家でこのままいるのも良いが、せっかくの年末なので漫喫で眠くなるまでマンガを嗜むのも良いかもしれない。そう思い立ち、出掛ける事にする。時刻は深夜1時を過ぎたあたりだろうか。
行き掛けにトイレに行きたくなったが目的地は自宅から徒歩5分ほどのところにあるので、まぁいいだろう。
程なくして、到着した私は直ぐ様エレベーターに乗り込む。
この漫喫は古めのビルの6Fにあり、その他のテナントは年末休暇に入っているので「6」以外のボタンは押せずに直通運転をしている様だった。
外は寒かったしトイレに行きたかったので、エレベーターが早く進むわけはないのにボタンを連打した。
これが悪かったのか静かに動き出したエレベーターが3階から4階の途中に差し掛かった時、突然。
ガクンンッ!!!
!!!?
どうやら止まってしまった様だ。
最初の頃はなんかこういうのドラマみたい!とウキウキしていた。すぐに動き出すと思ったからだ。
だが待てど暮らせどエレベーターはウンともスンとも言わないので次第に不安が全身に満ちてくる。
テンパりながら、非常用ボタンを押す。
オーーーイ!!
止まってまーーす!!
寒い上に、トイレに行きたい焦燥感がそうさせたのだろうか。気付けば全力で叫んでいた。こちらとしても必死なのである。しかし、一向に返事はない。
私は相当テンパっていたが、どうやら膀胱はそれ以上にテンパっているらしく、暴行されているそれに近い激痛がこみ上げてくる。 だがどうする事も出来ない。とにかく何かしらのレスがあるまで、待たなければ。
かなり寒かったが動くと下腹部が痛くなるので、隅っこで大人しく身体を微振動させながら救助の時を待った。
それからどれくらい経っただろうか。体感的には永遠と言っても過言ではないくらいの長さだったがもうそろそろ(主に膀胱が)限界だと思ったその時。
「…もしもし?どうしました?」
警備員のおじさんの声がエレベーター内に響き渡った。福音かと思った。
私は寒さで開き辛くなっている口を思いっきり開け、声を振り絞って訴える。
「閉じ込められてるんです!助けて下さい!!」
「はいはい。ちょっと待って下さいね~」
焦る私など気にも留めず、おじさんは能の如くゆらりとした立ち振舞で扉を開け始めた。 やっとの想いでエレベーターから脱出するとおじさんが
・このエレベーターは古くてたまに止まる事
・おじさんは警備の人でたまたま見回りに行ってて返事が出来なかった事
を優しい口調で教えてくれた。
その話しをしているおじさんをの目はこれでもかというくらい充血している。
寝てやがったなジジイ!!
とはいっても年末も頑張って働いているおじさんを責め立てられる訳もなく御礼を言って漫喫に駆ける。入店すると店員さんが何か言っていたが、完全に無視した。
下腹部の時限爆弾がもう爆発寸前だからだ。ちょっと複雑な店内にイラつきながら闊歩する。やばい、やばい、もう限界だ。
そしてトイレのドアを開けた瞬間、私は全てがどうでも良くなった。
まるで一つの年が終わり、新しい一年が明ける様に
一人の人間がヒトの尊厳を失い、新しい自分に出会ったのだ。
「明けましておめでとう。」
そう叫ばずにはいられない。
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