コンビニに青ざめたジョイマンが飛び込んできた
先日、以下のツイートをして思い出した。
遅めの昼食とって、お腹が痛かったからコンビニに寄ったんだけどトイレ貸してないってよ。切羽詰まっているときの、その絶望感たるや。気を紛らわせるためにツイートする。あまりアイツのことを考えたらダメだ。家まで残り300m。やつはもうすぐそこまで迫っている。
— Ryohei Kono (@tube_ryo) 2015年11月14日
お腹の断末魔は、近い。
7年ほど前、学生時代の話である。
当時、大学の単位も大方取り終えて時間を持て余していた私は目の前に迫る社会という名の現実から逃避をしたくて、とにかく遊びに興じていたのを覚えている。
今思い返してみても「クズの典型」みたいな大学生だったなと思う。遊びたい盛りで時間は欲しいが、金も必要。そんな私がたどり着いた結論は、コンビニの夜勤バイトだった。
働くことにしたのは、新宿御苑前のam/pm(現在はファミマ)
このお店は夜勤一人体制だったので仕事量はそこそこ多いものの、とても気が楽。しかも時給1,500円と高額で週2〜3日働ければ、十分稼げて満足度も高い。
そんなある日の深夜だった。比較的平穏な平日に波風が立ったのは。
一人の男性が扉を破壊せんとばかりに飛び込んできたのだ。お笑い芸人ジョイマンの高木さんだった。
※画像左当時はかなり頻繁にテレビにも出ていたため、近くでロケでもあったのだろう。よく見る衣装でこちらに向かってくるのだが、店員であるところの私は驚きのあまり声が出ない。有名人が来たからではない、彼の顔が引くほど青かったからだ。
今でも目を瞑ると鮮明に思い出される。とにかくすごく青かった。
いや、正確に言えば彼は色黒タイプなので青と黒が混ざって、世界崩壊前日の空みたいな色になっていた。
世界崩壊前日の彼は、直立不動している私を一瞥すると、
「トイレ・・・」
とだけ言い残して店の奥に進む。恐らく相当な腹痛だったに違いない。「いきなり出てきてゴッメ〜ン」というお馴染みの台詞に最も適したシチュエーションだと思ったが、そんな余裕もなかったのだろう。
ところで、このコンビニは割と縦に長く、図で描くと以下のような構造。
かなり苦痛な道のりであることは想像に難くないのである。しかも手前の扉はバックヤードの入り口となっていて、
「間違えてバックヤードにちょっと入っては出る」というポップな過ちを犯しながらトイレに向かおうとする高木さん。
そんな微笑ましい光景を見つめながら重大な情報を伝え忘れたことに気づいた。このコンビニ、トイレを貸していないのだ。
繁華街では犯罪防止のためお客様にトイレを貸していない店舗は多く、そういうお店は決まってトイレか分かりづらくなっているもの。そのトイレかもしれない扉の前で、右往左往する高木さん。
私は告げなくてはならなかった。「トイレは貸していない」という、悲劇的すぎる真実を。
正直言って迷った。目の前の瀕死然とした人を助けるべきか、オーナーから言われたルールを厳格に守るべきか。どちらが正しいのか。
だが、そこは「クズの典型」と言える私である。マニュアル以外のことは一切できないため、無情にも告げることになった。
「トイレ、貸してないんです」
と。
それを聞いた瞬間、彼の世界は崩壊した。かのように見えた。
その後、近隣にトイレはないかという質問に対して「知らない」的な即答をされ絶望に暮れたであろう高木さん。「ブピッ」という異音を残して足早に去っていく、その背中を今も忘れることができない。
おそらく半径200m以内でトイレを貸しているコンビニはなかったはずだが、果たして用は足せたのだろうか。大丈夫だっただろうか。
今となっては、そのパンツの中の真実を知る由もないのだが、もう一度会う機会があったら力の限りこう叫びたい。
「まことにすいまメ〜ン」
と。