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自省log

毎日5分をムダにしたな。と思えるブログ

初恋の人が「恵方巻き」を貪っていた。

泣いた話 小話ネタ 日常系ショートショート

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画像引用元
明日は待ちに待った節分だ。節分といえば豆まきの他に恵方に向かって巻き寿司を食べるという儀式が蔓延っているのだが、私は豆まきこそ大好きであるものの恵方巻きに関してはかなり懐疑的に見ているタイプである。これは以前味わったトラウマに起因するところが大きい。

小学校低学年だった頃の話。当時私には大好きな女の子がいた。彼女は近所に住んでいる1学年上のお姉さんで親同士仲が良く、よく遊んでもらっていたことから淡い恋心を抱いていたことのである。年頃の割に大人びた優しい笑顔と、泣きボクロが特徴的な彼女にどうしようもない胸のざわめきを感じたものだ。

だが忘れもしない節分のあの日。私は近所の公園へ遊びに行くため住宅街を通り抜けていた。公園に行く途中、彼女の家の前を通るのだが何の気なしに家の方に目をやるとそこに恐ろしい光景が広がっていたことを今も鮮明に覚えている。

彼女の家族が窓の付近に立ち、何やら黒い物体を貪っているのだ。皆目を瞑り、やや上方を見ながら微動だにしない。
今でこそ"恵方巻きを食べる儀式"だと分かるが当時の私はそんなこと知る由もないので恐怖におののいてしまった(それにしても窓際でやるのは珍しい気がするが)
構図としてはこんな感じだ。

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私は子供心にとんでもないものを目撃したと思った。彼女の家には秘密があって、あれは人には言えない恐ろしい儀式に違いない。そう私の中の何かが告げる。
ここにいることを気づかれたら絶対ダメだと直感的に悟った私は、足早に通り過ぎようと試みるも健闘虚しく窓が開き

「おはよう!ちょっとお家にあがっていかない?」

と彼女の元気な声が耳に突き刺さる。普段なら嬉しい誘いだが、脳裏には先ほどの光景がびっしりとこびりついているのだ。背筋が凍りつく感覚を覚える。
お父さんも「上がっていきなさい」と満面の笑みで私を迎えようとしていて、その笑顔がそら恐ろしい。彼らは秘密を知ってしまった私を始末する気なんだろうな、そう思った。無知ゆえの悲しい誤解である。

私は彼女らの呼び声を無視して、一心不乱に駆け出した。あの家に入ったが最期、もう出て来られないのだろうと直感が大声をあげて喚き散らしている。
息を切らしながら走り、時折後ろを振り返っては着いてきていないかを確認してやっとの思いで自宅に帰ったが、あの光景が怖くて親にも話すことができない。
それに話したら告口だと見なされる可能性もあるので必死に沈黙を守る。
そんなことをしていたら結局彼女とも気まずい関係になり、疎遠になってしまった。
___

あれから随分月日が経ち、数年前の話。ビデオ屋さんで大人のDVDを眺めていた私はある作品を目にして、愕然とした。目の前に懐かしい顔があったからだ。
随分加工された写真だが優しい笑顔に、特徴的な泣きボクロ。見間違うはずがない。あの日の面影を携え、初恋の人が目の前で笑っているのである。なんとも唐突な再会だ。

彼女はいわゆる"女優"になっていた。突如として湧き上がる想い出、そしてトラウマになった恵方巻き。目を瞑り、恵方巻きを貪る彼女を目撃してから幾年月。
再び彼女が目を瞑りながら下腹部の「恵方巻き」を貪る姿を目にするとは何の因果か。

私達は大人になっていた。そして時は残酷にも人を変えるのである。
あの頃の清純な私達はもういない。

「俺達も大人になったんだ。」

私はそう呟くと確かな面持ちで彼女のDVDを持ち恵方(レジ)へ向かって一心不乱に駆け出した。

ふとまきまっきー

ふとまきまっきー

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