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自省log

毎日5分をムダにしたな。と思えるブログ

電車でコートが蹂躙された。

泣いた話 小話ネタ 日常系ショートショート

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終電で帰宅をしていた時の話である。
その日は平日にも関わらず終電が混雑していてビックリしたが運良く座れたのでホッとした事を覚えている。その日は朝も早かったし最寄駅からの徒歩も長いのでどうしても座りたかったのだ。

私から見て右側に座るのは中年のサラリーマン。かなり疲れているのだろう。頭を窓に擦り付ける様にして天を仰いでいる「首の骨折れないのかな?」と少し心配になったものだ。また左隣は大学生らしき若い女性。少し派手目の服装で、足を組み座席端の手すりに寄りかかっている。そんな二人に挟まれているとたちまち私も眠くなってきた。ゆりかごの様に心地良い揺れに身を任せながら眠りつこう。

それから何分経っただろうか。正確な時間は覚えていないがふと肩に重みを感じた。私は目をつぶりながら考える。

(女子大生が寄りかかってきた!!)

と。座っている時に寄りかかられるのは嫌だが、若い女性であれば正直悪い気はしない。うんうん私の肩でゆっくりおやすみなさい。つとめて紳士的に彼女の重みを受け入れた。

しかし問題は右側のおっさんだ。さっきまで窓に頭を預けていたのに、気付けば彼も私の肩に寄りかかっている様だ。この時は目を閉じていたので想像で書くが構図にすると多分こんな感じである。

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おっさんは何やらうなされているのか、頭皮をコートにすりつけてくる。心の底から嫌悪感が湧き上がるも今動いたら隣の女子大生が離れてしまうかもしれない。それはなんか勿体無い気がするので、見たくない右側の現実から逃避する事にした。車内アナウンスによると最寄駅まではまだだいぶあるし、軽く座り直し改めて眠りにつく。

しかし今度は簡単に眠れなかった。さっきから何やら酸っぱいニオイがするからだ。なんか生臭くて、酸っぱい"世の中の不快"が凝縮した様なニオイ。これはなんだ?もしかしたら自分の口臭?でもガムを噛んでるから、いくらなんでもここまでクサくはないだろう。
人間は意識をし始めると不思議なもので、さっきまではまだガマン出来る程度だったニオイが瞬く間に強くなっていく。意識すれば、するほどクサイ。腐った刺身で洗顔されている気分だった。

流石にこれでは眠れないので目を開け周囲を確認する。そこで私は信じられない光景を目の当たりにした。コートの左肩がベッチャベチャなのだ。瞬間その液体が「ヨダレ」である事を理解する。
左側といえば女子大生。少し前に彼女は体勢を変え、手すり側に寄りかかっているのはなんとなく動きで分かっていた。おいおい、女子大生さんそりゃないだろうよと彼女を方に目を向けて、私は絶句した。

あれぇ??なんか知らんおっさんがいる!!

状況をもう一度、整理してみよう。私の右隣にはおっさんが寝ていた。私のコートにこれでもかと頭皮を擦りつけていたおっさんだ。そして左隣は女子大生なはず。
でも目の前には女子大生の面影が何一つない、おっさんが幸せそうな顔で眠っている。つまり私はこんな状態でずっと過ごしていたらしい。

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どうやら私が寝ている間に彼女は降りてしまった様だ。

(という事はこのヨダレもおっさんの…?)

私はそれ以上考えるのを止めた。

でもこれからどうすればいいのだろう。おっさんを起こし、問い詰めクリーニング代でももらうべきなのか。いやでもこんな時間に?このヨダレがおっさんのものか確証もないのに?そんな事をぐるぐる考えている内に私の最寄駅に着いてしまったが、おっさんが起きる様子はない。

「もういいや!」と自分に言い聞かせて電車から駆け下りた。

ホームで改めて、汚され蹂躙されたコートを眺めてみる。右側にはフケらしき白い粉がつき、左側はヨダレ染み。
なんかよく分かんないけどすごく酸っぱいニオイを発している、左右どちらからとか関係なくもう全体がクサイ。生憎これを着て帰る勇気は持ち合わせてないので、すごく寒いけど指先でつまみながら家に帰ろう。

自宅までは徒歩約20分。その時の気温は確か1度。切り裂くような寒さに身体を震わせながらコートを摘み歩く私は、どう見ても"徒歩"というか"トホホ"だったに違いない。